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京都地方裁判所 昭和58年(ワ)2099号 判決 1988年6月16日

原告

日興御所前スカイマンション

管理組合

右代表者理事長

明石孝夫

右訴訟代理人弁護士

久米弘子

被告

神部純二

被告

岩瀬たみ子

右訴訟代理人弁護士

寺田武彦

右訴訟復代理人弁護士

國弘正樹

主文

一  被告らは原告に対し、別紙物件目録記載(1)の構築物及び同目録記載(2)の屋外空調機一台を撤去せよ。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文一、二項と同旨の判決

2  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、日興御所前スカイマンション(以下「本件マンション」という。)の区分所有者全員を組合員とし、管理組合規定と、これに従って選出された役員をもつ権利能力なき社団であり、本件マンションの区分所有者は、「建物の区分所有等に関する法律」に基づき、その建物、敷地及び付属施設の管理または使用等について日興御所前スカイマンション規約(以下「本件マンション規約」という。)を定めている。

2  本件マンション規約によれば、各区分所有者及び代理占有者は、バルコニーに建造物、構築物等を建設または設置し、バルコニーに改造、改良を加えることを禁止されている(第二九条第八号)。また同規約によれば各区分所有者または管理者(組合の理事長)は違反行為の差止め及び妨害の排除を請求できるし(第三一条)、日興御所前スカイマンション管理組合規定(以下「本件組合規定」という。)によれば、組合員が規約等に違反したとき、原告が当該組合員に対して必要な措置をとることができる(第一五条)と定められている。

3  被告らは、本件マンション四〇二号室の区分所有者であり、入居に際して本件マンション規約の遵守を約した。

4  被告らは、昭和五七年九月中旬、右四〇二号室に接するバルコニー(ルーフテラスもバルコニーとその構造及び機能的に同一視すべきである。)一杯に、四辺をガラスで覆った床面積約12.22平方メートルのサンルーム様の大きな構築物(別紙物件目録記載(1)―以下「本件サンルーム」という。)を設置した。

また、被告らは右設置にともない、従前バルコニーに設置してあった共有の手すりを勝手に撤去し、かつ従前はルーフテラス内に設置してあった被告ら所有の屋外空調機(別紙物件目録記載(2))を勝手にルーフテラス外に移動させ、専用使用権のない、避難梯子のすぐそばの共用部分に設置した。

5  そこで原告は被告らに対し、本件サンルーム及び屋外空調機(以下「本件構築物等」という。)の撤去を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の事実は認める。

2  同4につき、被告らが四〇二号室に接するルーフテラスにガラス張りの本件サンルームを設置したこと、右設置にともない従前バルコニーに設置してあった共有の手すりを撤去したこと、また従前はルーフテラス内に設置してあった被告ら所有の屋外空調機を移動させて設置したことは認めるが、その余は否認する。しかし、本件構築物等は、本件マンション規約において設置等を禁止された構築物等には該当しない。

即ち、本件サンルームの設置が問題となっているルーフテラスは、各区分所有者が専用使用権を有する部分であり、第一次的な維持管理は専用使用権を有する各区分所有者が行い、その使用方法についても、建物の基本構造を変更したり、構造上の安全面に影響を及ぼすような建造物や構築物を設置することなく、建物全体の美観や風格を損なわず、防犯上または非常時に支障をきたすことなく、下階や上階及びその他の住人に悪影響を及ぼすものでないかぎり各区分所有者の自由使用が認められる。そして本件サンルームについてみるに、四〇二号室北側のルーフテラスのうち、被告らの専用使用に属する部分の一部である鉄製手すりで囲まれた部分の床から庇部分まで黒色の高級アルミサッシの枠を設置し、同枠内に透明ガラスとステンドガラスを入れたものであり、外見上からは本件マンション及び周辺の美観を損なわない形状や色に、構造的には本件マンション自身の構造や下階に悪影響を及ぼさないように配慮して作り、総費用は約三六七万円を要した。勿論原状回復が可能であり、本件マンションの基本構造を変更したものではなく、構造上の安全面や防犯上または非常時に支障をきたすものでもなく、階下や上階及び他の住人に何ら悪影響を及ぼす可能性もない。そして本件マンション全体の美観や風格の点においても違和感を感じない。これが形式上は規約違反に該当するとしても、実質的には違反は認められないというべきである。

三  抗弁

1  (原告の承諾)

仮に本件構築物等が本件マンション規約において設置等を禁止された構築物等に該当するとしても、被告らは昭和五七年五月、本件構築物等設置工事の開始に先立ち、本件マンション管理人を通じて原告理事長の承諾を得ており、また管理人が二回被告らの室を訪れて工事内容につき熱心にアドバイスをなし、昭和五七年九月一〇日から工事を開始し、同月一六日完成した。

2  (正当事由)

本件マンションは、以下に述べるとおりその構造上多くの欠陥を持ったマンションであり、プライバシーの確保と防犯対策、及び結露による健康問題を解決するために本件構築物等を設置した。

(1) 被告らは本件マンションに入居以来、プライバシーの確保及び防犯対策の点から非常な苦痛と不安を味わって来た。即ち、

① 被告らの所有する四〇二号室及びその西側に隣接する四〇三号室との間には、ルーステラス上に仕切り壁が存しないため、隣接ルーフテラスから四〇二号室がまる見えであった。

② 各室が面するルーフテラス部分の仕切りとしては高さ約一メートル位の鉄柵状手すりが設けられているだけで、しかも、四〇三号室の手すりのうち最も東側(四〇二号室のすぐ際)の幅約八〇センチメートル位の部分が開閉自由な扉となっている。

③ 四〇二号室と四〇三号室との間には、五階ルーフテラスから四階ルーフテラスに下りるための避難口と避難梯子が存するが、その管理や使用がまったくルーズで、ほとんどいつも避難口が開いたままであるとともに、工事職人や管理人が常時使用している。

④ 通りを挟んで本件マンションの北側に立っている五階建のビルの屋上から、四〇二号室の状況が手にとるように見え、被告らは同ビルの住人からプライバシーを守るために苦労して来た。

(2) 本件マンションは建築時の欠陥工事のため、各室や廊下で水漏れや壁面のひどい結露が発生している。

四  抗弁に対する認否

原告の承諾があったこと及び正当事由が存することについては否認する。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

二請求原因4につき、被告らが四〇二号室に接するルーフテラスにガラス張りの本件サンルームを設置したこと、右設置にともない従前バルコニーに設置してあった共有の手すりを撤去したこと、また従前はルーフテラス内に設置してあった被告ら所有の屋外空調機を移動させて設置したことは当事者間に争いがない。

<証拠>及び前記争いのない事実を総合すると以下の事実が認められ、これに反する<証拠>はにわかに採用し難く、他に以下認定を左右するに足る証拠はない。

1  本件マンションは昭和五一年一〇月に新築完成した鉄筋コンクリート造陸屋根五階建の建物であり、被告らは本件マンションの四階四〇二号室の区分所有者として新築当初から本件マンションに入居した者である。原告は、被告らを含める本件マンション入居者全員を組合員として構成された、管理組合規定とこれに基づき選出された役員をもつ権利能力なき社団であり、各入居者は入居にあたり本件マンション規約及びこれに基づく本件組合規定、本件マンション使用細則(以下「使用細則」という。)を遵守することを約している。

2  本件マンション規約によれば、区分所有権の対象となる専有部分は住宅に属する附属物とされ、ただし、各住戸に接続するバルコニーは除かれており(第二条)、右以外の部分はバルコニーを含め共用部分とされている(第三条)。さらに共用部分につき専用使用権が認められている部分があり、バルコニーについても専用使用権が認められており(第八条)、これについてはバルコニーに直接接続する区分所有者が使用細則に従って無償で専用使用することが認められている(第一二条)。そして各区分所有者および代理占有者に対し、バルコニーに建造物、構築物等を建設または設置し、バルコニーに改造、改良を加えること、廊下、階段室等共用の場所を不法占有し、または物品を放置することが禁止事項の一つとして定められ(第二九条第八号、第六号)、共用部分は、それぞれの目的に従った用法にて使用するものと義務づけられている(第二七条本文)。また使用細則によると、バルコニーの使用にあたっては建物全体の美観と風格をそこなわないこと、非常時の避難場所として支障のない使い方をすること等とされ、クーラーの室外機以外の重量物を置くことや、建具、構作物等を取りつけることが禁止され(6(8))、バルコニーの避難経路になる場所、隣家との間仕切板附近に物を置かないこと(8d)と規定されている。

3  本件マンション規約添付の図面によると、本件マンション四階部分及び五階部分にはバルコニー以外にルーフテラスと表示された部分が存するが、同規約上ではルーフテラスと明示した規定はないが、右ルーフテラス部分は区分所有の対象となる部分ではなく、区分所有者の専用使用権が認められた共用部分であり、階下の屋根の部分が階上のテラスとして使用され、高さ約一メートルの鉄製フェンスで囲われているがその構造上バルコニーと同様避難場所としての役割を果たしている。被告ら所有の四〇二号室のルーフテラスは縦1.3メートル、横10.4メートルであり、四〇二号室と西隣の四〇三号室との北側共用部分には、五階から四階に下りる非常時のための避難口及び避難梯子が設けられている。

4  被告らは、本件マンションがその構造上結露や水漏れが激しく、また北側の五階建の建物から四〇二号室の内部が覗かれプライバシーの確保が困難であり、避難口から避難梯子を伝って不特定の人間が入り込んでくるおそれがあり、防犯上も問題があるとして、昭和五七年五月頃、被告らの専用使用権が認められているルーフテラスの部分にサンルームを設置することを計画した。同年六月頃、本件マンション管理人である訴外上土井正男に対し、ガラスのフェンスを設置したいのでその旨原告の理事長の承諾を得て欲しい旨依頼したが、理事長は右施設は規約に違反するものであるから認められない旨同管理人を通じて被告らに申し渡した。しかし、被告らは同年九月一一日右工事に着手し、同月一五日に本件マンション理事会の工事の中止と施設の撤去要請にもかかわらず、同月一六日、本件サンルームを完成させた。本件サンルームは、被告らの専用使用が認められたルーフテラスのうち、別紙物件目録添付図面の赤線部分に設置されていた鉄製フェンスを撤去したうえ、同赤線で囲まれた部分にコンクリートを上積みし、縦1.3メートル、横9.4メートル、床面積12.22平方メートルの大きさで、アルミサッシ枠を設け、ガラスを組み入れ、風雨が入り込まないようにされており、床にタイルを張った構造で、費用三六〇万円を要して設置された。被告らは、右サンルーム内部に椅子、机、鉢植え等を置いて利用している。また本件サンルームの設置にともない、従前ルーフテラス内にあった被告ら所有の屋外空調機を、別紙物件目録添付図面記載のとおり、四〇三号室との間にある避難口附近の共用部分に移動させて設置した。

右認定の事実によると、被告らが本件サンルームを設置したルーフテラス部分は、規約上では何ら特別に明示の規定はないものの、専用使用権が認められた共用部分であり、その機能上からはバルコニーと同様の性格を有するもので、規約上はバルコニーの使用と同様の利用制限に服すべきものであると解するのが相当である。そして、被告らの設置したサンルームが、右認定のとおりの構造である以上、ルーフテラスが非常時に果たす役割の重要性に照らし、本件マンション規約第二九条第八号でその設置を禁止された構造物に該当するものであるというべきである。また、被告らの移設した屋外空調機の設置場所は、被告らに専用使用権が認められていない共用部分であり、しかも避難口、避難梯子のすぐそばであるから、非常時において障害物となることは当然予測されるから、これも非常時における重要性に照らし、本件マンション規約第二七条で遵守を義務づけられた目的に従った用法による使用に違反するものというべきである。

file_3.jpgan xe gw on ws L I tenes 13m ® 77 L® no7een lad NOIF9R a 13 FS H SEZ - \ enya x sees bosnemnonmen tabenco8) RRO三次に抗弁につき検討する。

1  被告らは、本件サンルーム設置につき原告理事長の承諾を得ている旨ね主張し、被告岩瀬たみ子本人尋問の結果にはそれに副う供述が認められるが、右供述部分は証人上土井正男の証言に照らしにわかに採用し難く、他に右主張を認めるに足る証拠はない。

2  また被告らは、本件サンルームが原状回復が可能な施設であり、本件マンションの基本構造を変更したものではなく、構造上の安全面や防犯上または非常時に支障をきたすものでもなく、プライバシーの確保上も必要であり、また階下や上階及び他の住人に何ら悪影響を及ぼす可能性もない旨主張し、被告岩瀬たみ子本人尋問の結果によると四〇二号室の内部に結露が生じ、北側のビルから内部を覗かれる可能性があることは認められるものの、それらの予防、防止等の対策には本件サンルームが必ずしも必要かつ有効なものであるとは認め難く、むしろルーフテラスの非常時において予想される避難場所、避難通路としての重要性に鑑みると被告らの主張する本件サンルーム設置の正当性を認めることはできない。また<証拠>によると、被告ら以外にもバルコニー等にブロックを設けて花壇として利用したり、簡易物置を設置したりしている居住者が存在することが認められるものの、それらはいずれも被告らの設置したサンルームと比較して規模も小さく、構造も異なるうえ、他の居住者に違反行為が認められるからといって被告らの正当性を裏付けるものでもなく、他に被告らの正当性を基礎づける事実を認めるに足る証拠はない。

四本件マンション規約によると、各区分所有者または管理者は、他の区分所有者または代理占有者が本件マンション規約または使用細則に違反する行為を行ったときはその行為の差し止めおよび妨害の排除を請求することができるとされ(第三一条)、また本件組合規定によると、組合員が規約等に違背したときは、組合は当該組合員に対して必要な措置をとることができる旨規定されている(第一五条(1))ことは当事者間に争いがないから、原告が被告らに対し、本件構築物等の撤去を請求することができることは明らかである。

五以上のとおりであるから、本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用し、仮執行の宣言については相当でないからこれを却下して、主文のとおり判決する。

(裁判官森真二)

別紙物件目録

京都市上京区室街通一条下る薬屋町四一九番地

同区一条通烏丸西入広橋殿町三九九番地

鉄筋コンクリート造陸屋根五階建

日興御所前スカイマンション四階四〇二号室に接するバルコニーの

(1) 別紙図面①の赤線で囲まれた部分に建築されたガラス張りのサンルーム様構築物

床面積 約12.22平方メートル

(2) 別紙図面②の部分に設置された屋外空調機一台

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